軽く調べたところ、「におい」と連動した記憶を、人は忘れることがないらしい。
その「におい」を感じることにより、忘却の彼方に失ったその記憶を呼び起こすことがあるというのだ。
もちろん、思い出したくない記憶を強制的に掘り起こすこともあるのだろう。
緒方にとってその部屋に漂う、その「におい」は、
忘れることの出来ないある記憶を強引に再生するきっかけになった。
頭の中で、古いフィルムによくあるダストやスクラッチノイズの混じった映像がゆっくりと再生されていく。
遊戯機械が並ぶ背景に、横たわる人、人、人……その地に立つのはただ一人……緒方の顔には涙……笑み……
ガタッ……
部屋の奥で物音がした。